符号化 (encoding)

前項目での「短期記憶 (short-term memory)と作業記憶 (working memory)」の作業記憶の部分で説明したように、短期記憶に似た性質で心的計算をするための「作業空間」としての短期記憶を作業記憶 (working memory)と呼ばれる。

情報をこの作業記憶に符号化するためには、まずその情報に注意を向けなければならない。なぜなら私たちは選択的に注意するので、作業記憶には選択された情報だけが入ってくるからである。このことは私たちが経験したこのと全てが作業記憶に入るわけではなく、それゆえ、もちろん後ですべての経験が検索されることもないことを意味している。

事実、多くの「記憶の問題」は実際には注意の誤りであることも多く、例えばもしあなたがスーパーで食料品を買ったとして、後である人があなたにレジにいた店員の目の色や服の色などを尋ねたとしても、おそらくは答えることができない。それは記憶の失敗でじゃなく、あなたがスーパーの店員に注意をしていなかったからである。

音韻的符号化

情報が記憶に符号化されるとき、それは一定の符号もしくは表象で入れられる。例えばもしあなたが下記の電話番号をぱっと見て、その番号を保持しているとき、その電話番号をどのような形態で表象しているだろうか。

banngou-2

それは、視覚的、あるいは音韻的であるのかは様々であるが、このどれを使っても情報を作業記憶に符号化できるが、情報のリハーサルを通して、活性化した状態にいておこうとするときは、私たちは音韻的符号化を好んで使うことが研究で明らかになっている。

情報が数字や文字あるいは単語のような言語項目からなっているとき、リハーサルは特にとく用いられる方略である。それゆえ、電話番号を記憶しようとするとき、たいていその番号をその数字名と音として符号化し、その番号を押し終わるまでこれらの音を復唱するのである。

視覚的符号化

私たちは言語項目を視覚的形態でも保持することができる。実験によれば、言語材料に対して視覚的符号化を使うことができるが、その符号は急速に減衰することがわかっている。

人は、(記述することが難しく、それゆえ音韻的に復唱することが難しい絵画のような)非言語的項目を貯蔵しなければならないとき、視覚的符号化が最も重要になってくる。例えば、いくつかのカバンを車のトランクにうまく収納するという課題があったとしたら、一つの効果的方法は、それぞれのカバンの短期記憶表象を符号化し、車の中にあるカバンの位置を想像してうまく収まるかどうかを決める。

そうした心象を作り出すヒトの能力には多くな個体差がある。多くの人はある種の視覚的表象を作業記憶に保持することができるが、中にはわずかではあるがほぼ写真に相当するくらい明瞭に表象を保持できる人もいる。このような能力は子供によく見られ、そうした子供たちは1枚の絵を短時間見た後、その絵が取り除かれてもなお、目の前にその鮮明な表象を経験できる。

彼らはその表象を数分間程度であれば保持でき、質問されると、猫のしっぽのしまの数のような非常に細かな部分まで答えられるケースもある。こうした子供たちは直観像(事物のイメージが実在するかのように鮮明に再現されること:あるいは写真のような表象)を読み取っているように思われるが、直観像は極めて稀な現象である。

子供たちを対象にしたいくつかの研究によれば、持続時間がながく、かつ鮮明な細部をもった視覚的表象を報告したのはわずか約5%だけであった。さらに、本当の写真のような表象を備えているかどうかの基準をさらに厳しくすると直観像の子供の間でさえも非常に少なくなる。

それゆえ、作業記憶における視覚的符号化は、写真の画像には何かしら及ばないものである。

音韻ループ(phonological loop)視空間スケッチパッド(visual-spatial sketchpad)

音韻的符号化と視覚的符号化の両方の存在を知ることによって、研究者たちは、作業記憶はいくつかの異なった作業空間もしくはバッファーから成り立っていると主張するようになった。

一つは、音韻ループ(phonological loop)と呼ばれている聴覚的符号で情報を貯蔵したり操作したりする機構である。この機構の中にある情報は急速に忘却されるが、リハーサルを通していつまでも維持できる。

第二の機構は、視空間スケッチパッド(visual-spatial sketchpad)と呼ばれており、視覚的もしくは空間的情報を保持し、そして操作する(Baddeley 1986)。例えば下記の図で、左の図版にあるあるそれぞれの物体は対応する右の図版の物体と一致するかしないか、すなわち、A,B二つの物体が他のものと一致するかもしくは鏡像であるかを見極めるとする。
心的回転
ほとんどの人は最初に一つの物体の心象ををつくり、そのあとでその物体が対象の物体と同じ空間的な向きになるように心的に回転させる。この課題は作業記憶にに関する多くの属性を明らかにしている。

第一に、視覚的情報は短期間、貯蔵されるだけでなく、現在進行中の現実世界の課題を遂行するために積極的に操作される。第二に、視覚的情報は短期間保持され続けている、そのため人がその課題を終えるやいなや、異なった情報によって置き換えられる。

最後に、情報が作業記憶に存在している間は、人はその情報を意識していることになるということである。作業記憶の内容は現在意識されている多くのことから構成されている(作業記憶と意識を同じものと考える研究者までいる例えばBaddeley&Andrade,2000)。

また、ワトソンとシャリス(warrington&Shallice,1969)の研究で音韻ループと視空間スケッチパッドが異なった脳の構成によって担われている様々な結果がある。

コメントを残す

サブコンテンツ

このページの先頭へ