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【感覚過程】時間説と場所説

色覚に関してと同様に二種類の理論が、耳が周波数をどのように符号化して音の高さに変えるのか、を説明するために提案されている。

最初の理論は、1886年委イギリスの物理学者ラザフォード卿(Lord Rutherfold)によって提案された。ラザフォードは、音波が基底膜全体の振動を引き起こし、その振動速度が聴覚神経の神経線維を毎秒1000インパルスの割合で発火させ、脳がこれを一定の高さとして解釈する。

この理論は、音が時間とともにどう変わるかに音の高さが依存すると提案しているので、時間説(temporal theory)と呼ばれる。だがこの仮説は、すぐに単純すぎることが分かった。実験で測定したところ、神経線維は、最大発火率が毎秒約1000インパルスであったからである。

このことは、もしラザフォードの仮説が正しいとすれば、周波数が1000ヘルツを越える音の高さは知覚できないことを意味する。もちろん、その高さの音でも私たちは知覚できる。ウェーバー(Weaver,1949)は、ラザフォードの仮説を救う一つの方法を提案した。

ウェーバーは、1000ヘルツを越える周波数は、各群がわずかに異なる速度で発火するような、異なる群の神経線維によって符号化できると論じた。もし一群のニューロンが、例えば毎秒1000インパルスの割合で発火していて、次に1ミリ秒後に、二番目の群のニューロンが毎秒1000インパルスの割合で発火し始めるのならば、その二群に関しての1秒あたりのインパルスの合成された速度は、毎秒2000インパルスになるであろう。

時間説のこの説明は、個々の細胞は波のすべてにお周期で応答するわけではないとしても、聴覚神経の神経インパルスの様相は刺激音の波形に従うという発見から支持を得た(Rose,Brugge,Anderson,&Hind,1967)。それでもこの仮説はまだ不十分である。すなわち、波形に従う線形繊維の能力は、約4000ヘルツで駄目になる。それでも、私たちは、もっと高い周波数の音を聴くことができる。

このことは、少なくとも高い周波数に関しては、音の高さという性質を符号化する手段がもう一つあるに違いないということを意味する。音高知覚の二種類目の理論は、この問題を扱っている。その理論は、1683年に遡る。フランスの解剖学者ジョセフ・ギシャール・デュヴェルニー(Joseph Guichard Duverney)は、周波数は共鳴(resonnce)によって力学的に音の高さへと符号化されると提案した(Green&Wier,1984)。

この提案を正しく理解するためには、まず共鳴の実例を考察することが助となる。音叉をピアノ近くで鳴らすと、その音叉の周波数に同調しているピアノの弦が振動し始めるであろう。耳も同じように働くということは、耳が弦楽器に似た構造を含み、各部分は異なる周波数に同調していて、一つの周波数が耳に提示されると、その構造の対応する部分が振動するということである。この見解はほぼ正しいことが証明され、その構造が基底膜であることがわかった。

ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ(色覚の諸理論)は、この仮説をさらに発展させ、その結果、音高知覚の場所説(place theory)を提案した。場所説は、基底膜に沿った特定の場所のそれぞれが一定の音の高さの感覚を生じると主張する。基底膜上にそのような場所がたくさんあるという事実は、音の高さに関してたくさんの異なる受容器があることを両立する。場所説は、私たちが基底膜で聴くことを意味しているわけではないことに注意してほしい。

むしろ最も振動する基底膜上の場所が、どの神経線維が活性化されるかを決定し、そこが、私たちに聞こえる音の高さを決定する。これは、関与する特殊神経に従って質を符号化する感覚様相に一例である。

基底膜が実際にどう動くかということがはっきりしたのは、1940年代になってからである。その頃、ハンガリー出身の生物物理学者ゲオルグ・フォン・ベケシー(Georg von Bekesy)は、モルモットと人間の解剖用死体の蝸牛にあけられた小さな穴を通して、基底膜の運動を測定した。

ベケシーの発見で、場所説の修正が必要になった。すなわち、別々の弦を有するピアノのように振る舞うというよりは、むすろ、基底膜は、一方の端で揺り動かされた敷布のように振る舞う。具体的には、基底膜全体が、ほとんどの周波数に関して動くが、運動が最大である場所は、聞こえる特定の周波数に依存することをフォン・ベケシーは示した。

高い周波数は基底膜の先端に振動を引き起こす。周波数が上昇するにつれて振動の様相は、前庭窓の方へ移動する(von Berkesy,1961)。聴覚に対する研究とその他の研究に対して、フォン・ベケシーは、1961年にノーベル賞を受賞している。

時間説と同様に、場所説は、音高知覚の多くの現象を説明するが、全てを説明するわけではない。場所説の最大の困難は、低周波音の場合に生じる。50ヘルツ以下の周波数の場合は、基底膜のすべての部分が、ほぼ均等に振動する。このことは、受容器がすべて均等に活性化されることを意味し、50ヘルツ以下の異なる周波数を弁別する方法がないことを意味する。

けれども、実際には、私たちは20ヘルツまでの低い周波数を識別できる。それゆえ、場所説は、低周波数音の知覚を説明する問題を抱えていて、一方、時間説は、高周波数音扱う問題を抱えていることになる。このことが、音の高さは場所と時間的様相の両方に依存し、時間説が低周波数の知覚を説明し、場所説が高周波数の知覚を説明するという見解を生み出した。

しかしながら、、どこで一方の機構が終わり、もう一方の機構が引き継ぐのか、ということは明らかでない。実際には、1000ヘルツから5000ヘルツまでの間の周波数は、両方の機構によって扱われる可能性がある。(Coren,Ward,&Enns,1999)。

 

 

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