赤ちゃんは生後数分内に大人のおおよその表情をまねすることができ、このことは赤ちゃんが社会的なやり取りに対する準備ををして生まれてくることを示唆している(Melzoff&Decety,2003)。
生後2カ月になると、平均的な乳児のほとんどは母親や父親も顔を目にすると微笑む。この微笑反応に、両親は喜び、繰り返し同じ反応を引き出そうと夢中になる。実際、このような早い年齢に見られる乳児の微笑む能力は、親と子の絆を強めると理由から、まさに歴史的に進化してきたものと考えられる。
両親はこれらの微笑から乳児は自分たちを認識し、そして愛しているのだと解釈する。そしてますます愛情を注ぎ、さかんに刺激して反応を誘発しようとする。すなわち社会的相互作用の相互に強化するシステムが確立され維持されることになる。
世界中の乳児たちが、ほぼ同じ年齢で微笑を開始する。このことは成熟が、微笑みの開始を決定づけるのに重要な要因であることを示唆している。盲の赤ちゃんもまた、健常児とほとんど同じ年齢で微笑することから、微笑みは先天的な反応であることを示している(Eibl-Eibesfeldt,1970)。
3,4カ月になると、乳児は親しい家族の者を認め、快く受け入れられるようになる。親しい家族の顔を目にしたり、彼らの声が聞こえると、微笑んだり喉を鳴らして喜ぶ。しかし、乳児は見知らぬ人に対してさえも同じように応答的である。
しかしながら、約7,8カ月になると、多くの乳児は見知らぬ人が近づくと、警戒したり実際に苦痛を示し始める。同時に、見慣れない状況に遭遇したり、見知らぬ人と一緒に残されたときに激しい抵抗を示す。いつもは決まって愛想良く振る舞い、ベビーシッターの注目を快く歓迎していた子が、いざ親が出かける用意をすると泣き出して、なす術もなく、家を出た後もしばらく泣き続ける我が子に、親は当惑してしまう。
必ずしもすべての乳児がこの種の人見知りを示すわけではないが、この種の不安を示す乳児の数は、生後約8カ月から1歳の終わりかにかけて、劇的に増加する。同様に、親からぼ分離に見られる苦痛は生後14~18カ月で頂点に達し、次第に減少していく。
3歳になればほとんどの乳児たちは、両親が不在でも、十分にあんしんして、ほかの子どもたちや大人たちと快適に相互作用をすることができるようになる。
これらの二種類の恐れの盛衰について、その子どもの養育条件による影響はきわめてわずかであるように思われる。同じような一般的な様式が、アメリカの家庭で養育された子どもにも、昼間保育所に通っている子どもにも観察されている
図に示すように、母親が部屋から出て行ったときに子どもがなく割合は、さまざまな文化間で違いが見られるが、その開始年齢や減衰年齢は非常に類似している(Kagan、Kearsley&Zelazo,1978)。
これらの恐れを示す系統的な時期をどう説明できるであろうか。二つの要因がこれらの開始と減衰において重要であるように思われる。一つは記憶能力の成長である。生後6~12カ月の間に、乳児は過去の出来事を記憶する能力が発達し、過去と現在とを比較できるようになる。
このことにより、いつもと違った、あるいは予期できない出来事に気づき、時には不安を抱くようになる。人見知りは、さまざまな見慣れない刺激や予想できない刺激に対する恐れの現れとまさに一致する。4カ月児には不気味な顔をしたお面やびっくり箱といった笑いをもたらすものが、生後8カ月児には不安にさせ、苦痛を招くものにうつる。
子どもたちは、奇妙な見慣れないものが何ら害を及ぼすものではないと学習するにつれて、このような恐れはしだいに減少する。
記憶の発達が分離不安(separation anxiety)、つまり養育者がいなくなったとき乳幼児が感じる苦痛に関係しているとの考えは、もっともであるように思われる。乳児は親が一分前にはそばにいたことを思い出し、「いなくなった」ことを理解することはできない。
親が部屋からいなくなったとき、乳児は何かがなくなったことに気づき、苦痛を感じる。乳児はいなくなったことと戻ってくることの過去の記憶が増すにつれ、今はいない親が戻ってくることを予期することができるようになり、不安は減少するのである。
二つ目の要因は、自律性(autonomy:養育者からの自立)の成長である。1歳児ではまだ大人からの世界に大きく依存しているが、2,3歳になると、自ら菓子皿やおもちゃ棚に向かっていくようになる。さらにまた、ことばを使い自分の希望や感情を伝えることができるようになる。
すなわち、両親や特定の親しい養育者への依存は減少し、親が常に存在することの問題は、子どもにとって重要なことではなくなるのである。
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