嗅覚-嗅覚系

嗅覚(olfaction)は、私たちの種の生き残りの助けとなる。腐った食べ物や漏れたガスなどの検出するために必要であり、におい感覚の喪失は、食欲不振を生じかねない。ほかの動物の生き残りのためにはさらにいっそう必要不可欠な感覚である。

それゆえ、ほかの種において、私たちにおけるよりも大きな皮質の領域が、嗅覚にあてられているのはもっともなことである。魚類においては嗅覚皮質が大脳半球のほとんどすべてを占める。イヌにおいては約3分の1である。人間においては約20分の1にすぎない。これらの変異は、においに対する感度の違いと関係がある。

嗅覚は、ほかの種において非常によく発達しているので、しばしば、コミュニケーションの手段として用いられる。昆虫やほかのいくつかの動物は、フェロモン(pheromones)を分泌する。すなわち、空気中に漂う化学物質で、その種のほかの構成員によってかぎ分けられる化学物質を分泌する。

たとえば、メスの蛾は非常に強烈なフェロモンを発散するので、オスは何キロメートル離れたところからもメスに引き寄せられる。オスの蛾はフェロモンのみに反応し、メスの姿に反応しているわけではないことは明らかである。

昆虫は「愛」だけでなく死を伝達するためにもにおいを使う。蛾が死んだ後、その腐敗していく体から形成される化学物質が、ほかの蛾を刺激して、その死骸を巣の外のごみの山に運ばせる。もし、生きている蛾に実験的に腐敗化学物質を浴びせると、その蛾は、ほかの蛾によって、ごみの山へ運び去られる。巣に戻ると、再び外へ運ばれる。このような早まった埋葬の試みは「死のにおい」が消えてなくなるまで続く(Wilson,1963)。

人間は、このような原始的なコミュニケーション体系の痕跡を持っているであろうか。実験は、少なくとも自分とほかの人々を区別したり男性と女性を区別するために、私たちがにおいを使えることを示している。一つの研究において、参加者が、シャワーを浴びたり体臭防止剤を使用せずにシャツを24時間着用した。

そのシャツが実験者によって集められ、その次に、実験者は参加者に3枚ずつシャツを与えてにおいをかがせた。。1枚は参加者自身のシャツであり、ほかの2枚は他人のものであった。そのうち1枚は女性のであった。ほとんどの参加者が、においだけに基づいて自分自身のシャツを同定できた。ほかの2枚のシャツのどれが男性が着ていたものであり、どれが女性が着ていたものかを言い当てることができた(Russell,1976;Schleidt,Hold,&Attili,1981)。

ほかの研究は、私たちがにおいを用いて、もっと微妙な事柄を伝達するかもしれないと示唆する。一緒に生活または仕事をしている女性たちは、においによって月経周期の段階を伝達するようであり、やがてこれは女性たちの月経周期が同時に始まる傾向に行き着く(McCintock,1971;Preti etal.,1986;Russell,Switz,&Thompson,1980;Weller & Weller,1993)。しかしながら、これらは、生理学的機能に対する影響であって、行動に対する影響でないことを覚えておくことが重要である。

月経の周期性は、健康な再生機能や繁殖力と結びついているが、人間の行動に対して直接的な影響があるわけではない。実際多くの研究者は現在、人間に対するフェロモンの行動面での影響は、社会的要因と学習要因が、ほかの哺乳類よりももっと私たちの行動に影響するので、間接的である可能性が高いと信じている(Coren,Ward,&Enns,1999)。

嗅覚系

物質が発する揮発性の分子が嗅覚の刺激である。揮発性の分子は物質を離れ空気中を進み鼻孔に入る(図1)。揮発性の分子はまた脂肪組織の中で可溶性でなければならない。なぜなら、嗅覚の受容器は、脂肪のような物質で覆われているからである。

嗅覚系は、鼻腔内の受容器と、脳のいくつかの領域と、相互連結神経伝導路からなる。嗅覚のための受容器は、鼻腔内の高いところに位置する。受容器と線毛(毛のような構造)が揮発性の分子と接触すると、電気インパルスが結果として生じる。これが変換過程である。

このインパルスは、神経線維に沿って嗅球(olfactory bulb)、すなわち前頭葉にすぐ下にある脳の一領域まで進む。嗅球は次に、側頭葉の内側にある嗅皮質(olfactory cortex)と結合している(嗅球と、長期記憶の形成に関与することが知られている皮質の部分との間に直接連合がある。おそらくこのことは、独特のにおいが、古い記憶を検索する強力な助けとなり得るという、プルートスの代表作の意図と関係づけられる)。

強度と質を感覚する

においの強度に対する人間の感度は、関与する物質に大きく依存する。絶対閾が空気の500億分の1まで低いこともあり得る。それでも。私たちは、ほかの種よりも、においに対してははるかに鈍感である。イヌは、人間が検出できるよりも100倍低い濃度の物質を検出できる(Marshall,Blumer,&Moulton,1981)。

私たちの相対的な感度不足は、私たちが鈍感な嗅受容器を持っているせいではない。むしろ単に、私たちが持っている嗅受容器の数が約100倍だけ少ないからである。すなわち、人間の場合はおおよそ1000万個の受容器がある。のに対して、イヌの場合10億個である。

私たちは、ほかの種よりは、においに頼らないけれども、においの多くの異なる質を感覚することだ出来る。推定値は様々であるが、健康な人は1万から4万の異なるにおいを区別することができるようである。なお、女性は一般に男性より優秀である(Cain,1988)。プロの調香師やウィスキーを調合するブレンダーは、たぶんもっと秀でており、おそらく10万のにおいを弁別する(Dobb,1989)。

さらに、嗅覚系が生物学的な水準でにおいの質をどのように符号化するのかについていくつかわかっている。状況は、視覚における色の符号化とは非常に異なる。色の符号化には三種類の受容器で十分であった。嗅覚においては、たくさんの種類の受容器がかかわっているように思われる。

1000種類の嗅受容器という見積もりは法外ではない(Buck&Axel,1991)。各種類の受容器は、特定のにおいを符号化するというよりはむしろ、多くの異なったにおいに応答するかもしれない(Matthews,1972)。そういうわけで、受容器の豊富なこの感覚様相においてさえ、神経活動の様相によって部分的に質が符号化されているかもしれない。

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