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【心理発達】道徳的判断の発達

ピアジェは子どもの思考の発達以外にも、どのように子どもたちは道徳的判断(moral judgment)を発達させるかに興味を持っていた。彼は、子どもたちが道徳的規則や社会的習慣を理解できるかどうかは、認知発達の水準に一致するに違いないと考えた。

さまざまな年齢の子どもたちがおはじきで遊んでいる場面の観察に基づき、ピアジェは子供たちが規則を理解していく発達には四つの段階があることを提唱した(Piaget,1932,1965)。

最初の段階は、子どもたちが前操作的時期の開始ごろに現れる。この段階の子どもはある種の「平行遊び」を興じ、それぞれの個人的な欲求による、一連の自己中心的規則に従う傾向にある。たとえば、さまざまな色のおはじきを色別に分類したり、あるいは大きいおはじきを部屋の中にころがし、次に小さいおはじき全部をころがしたりする。

これらの「規則」は、子どもの遊びに何かしらの規則性を与えているが、子どもはこれらの規則を頻繁にしかも恣意的に変える。つまりそれらの規則は協調あるいは競合といった包括的目的を提供してはいない。

およそ5歳ごろから、規則に従うべき義務の感覚が発達し、これらの規則を両親や神のような権威者から下された絶対的・道徳的な命令として捉えるようになる。規則とは恒久的かつ神聖なののであり、修正の対象とはならないとされる。規則を変えようとするいかなる人間的な理由があろうとも、これらの規則に文字通り従うことが、重要なものとなる。

たとえば、この段階にある子どもたち、おはじき遊びの出発点の位置を一緒に遊びたがっている小さな子供に合わせて変えようという提案を拒否する。

この段階の子どもたちは、行動をその背後にある意図というよりもむしろ、その結果によって判断する傾向が強い。たとえば、ピアジェが、子どもたちに対して、一組の対立する物語を提示したことがある。

一方の話しは、母親が留守中、男の子がジャムを盗み食いしようとしてティー・カップを一つ割ってしまったというのもで、、もう一方の話しは、何も悪いことをしていないのに、たまたまお盆いっぱいにあったティー・カップすべてを丸ごと割ってしまったというものであった。

「どちらの男の子が悪いのか」とピアジェがたずねると、前操作段階にあるこどもは、大きな損害を与えた物語の男の子のほうが悪いと判断する傾向がみられた。その活動の背後にある意図あるいは動機には関係なく判断したのである。

ピアジェの考える、道徳性理解の三番目の段階では、規則が社会的習慣であり、互いの合意によるものであることがわかり始める。規則は恣意的なものであり、全員の同意が得られれば、変更できることがわかるようになる。そしてまた道徳的実在論も減少していく。

すなわち、道徳的判断を行う場合、意図といった主観的思考に重きを置くようになる。また、罰というものを、回避できない神の審判としてではなく、人間による選択として見ることができるようになる。

形式的操作段階の始まりは、道徳的規則を理解する第四ならびに第五段階に対応する。この段階の子どもたちは、かつて出会ったことがない状況にも、好んで規則を一般化しようとする。この段階は、道徳的推理の観念論的形式として特徴づけられ、単に個人的、対人的状況を超えた、より大きな社会的問題にも考えが及ぶようになる。

アメリカの心理学者ローレンス・コールバーグ(Lawrence Kohlberg)は、ピアジェの道徳的推理の研究を、青年期ならびに成人期にまで拡大した理論を考えた(Kohlberg,1969,1976)。

彼が追求しようとした問題は、道徳的判断の発達に人類共通の段階があるのかどうかであった。彼は道徳的板ばさみを描いた物語を提示するという方法をとった。たとえば、瀕死の状態にある妻のために、ある薬が必要になった。しかし十分なお金がなく薬屋が要求する薬の代金を支払えない夫は、その薬を安い値段で売ってほしいと店主に頼んだ。

しかし、店主はそれを断ったので、夫は薬を盗もうと決意するという筋書きである。参加者は、この夫の行動を道徳的に判断するように求めた。

このような板ばさみの話しに対する答えを分析することによって、コールバーグは道徳的判断には六つの発達段階があり、それぞれが三つの水準、すなわち前慣習的水準(preconventional level)慣習的水準(conventional level)後慣習的水準(postconventional level)にまとめられるという理論を導いた。

分析は、その行動が正しいか間違っているかの判断によるものではなく、その決定を導いた理由に基づいて得点化された。

たとえば、男が薬を盗んだことに同意する。なぜなら「もし、妻が死んでしまったなら、悲しむべき困難な状況に陥ってしまうことになるだろうから・・・」。あるいは、賛成できない。なぜなら「もし無すりを盗んだら、逮捕され刑務所に送られることになるだろうから。といった答えは、いずれも水準Ⅰあるいは前慣習的水準に位置づけられる。

このような答えは、男の行動が予期される罰に基づいて、正しいか悪いかが判断されているからである。

道徳的推理の段階 性質
水準Ⅰ 前習慣的道徳性
段階1 罰への志向(罰を避けるために規則に従う)
段階2 報酬への志向(報酬を得るため、相手から好意を得るために、規則に従う)
水準Ⅱ 習慣的道徳性
段階3 良い子への志向(他者から非難されないために規則に従う)
段階4 権威への志向(権威から非難されないために、また「与えられた義務を遂行」しないことで罪の意識を持たないために、法律や社会的規則を支持する
水準Ⅲ 後習慣的道徳性
段階5 社会的契約への志向(原理原則に従った行為は、一般に共通の福祉に適合するものとして受け入れられる。原理は仲間からの敬意、つまり自尊心を維持するために支持される)
段階6 倫理的原理への志向(自ら選択した倫理的原理に従って行動する。それはたいていの場合、正義、気品、平等の価値を有する原理である。また自己否定を避けるためにその原理を支持する

コールバーグは、およそ10歳までの子どもたちはすべて、水準Ⅰにあり、10歳を過ぎたころから他の人々の意見を照らしてその行動を評価し始めるようになる(習慣的水準)、と考えた。ほとんどの年少児は、13歳まで、この水準で推理、判断する。

ピアジェに従って、コールバーグは、形式的操作の志向に到達した者だけが、行動が高次の倫理的原理に照らして評価されるという水準Ⅲ、ないしは後習慣的水準で必要とされる抽象的思考が可能になると主張した。最も高い段階である段階6では、抽象的な倫理的原理を形成する必要があり、自責の念にかられるのを避けるため、それらの原理に敬意を払えるようになることが要求される。

コールバーグは、対象ととなった成人のわずか10%いかしか、「明確な原理に基づく」段階6の思考を示さなかったと報告している。たとえば、この段階の思考は以下に示す反応である。前述の物語に対して16歳の子どもは、次のように答えた。

すなわち「社会の法律に従えば、(この男が)悪い。しかし、自然あるいは神の法則によれば、薬屋のほうが悪く、その夫の行動は正当化される。人の命は、経済的利益を超えたものであり、だれが瀕死の状態にあるかに関係なく、たとえまったくの見知らぬ他人であったとしても、人には命を救うという、死から逃れるための行動をとるべき義務がある」。

彼は後に段階6を削除していることから、今日、水準Ⅲは単に「原理に基づく推理の高次の段階」と表現されることがある。

コールバーグは、アメリカ、メキシコ、台湾、トルコといったさまざまな文化圏の子どもたちを対象に、このような一連の発達段階についての知見を得ている(Colby,Kohlberg,Gibbs,&Liederman,1983;Nisan&Kohlberg,1982)。

他方、人はさまざまな状況に応じて、種々の規則を使い分けているのであって、そこには何ら連続的な段階は認められないと主張する研究もある(Kurtines&Greif,1974)。さらにまた、「男性中心」理論であるという批判もある。つまり、「男性」流の正義や権利に基づく抽象的理論を、道徳的尺度の高次に位置づけたものであり、他の人々に対する配慮や関心に基づく「女性的」推理様式を考慮していないという反論がなされている(Gilligan,1982)。

幼い子供は、社会的習慣と道徳的習慣とを区別することができないというピアジェの主張もまた批判されている。ある研究では、たとえば、7歳の子どもに一連の活動を提示し、それらの活動に対する規則がないとしても、どの活動が悪いかどうかを示すように求めた。

噓をつくこと、盗むこと、たたくこと、わがままなこと、たとえそれらに対する規則がないとしてもほとんどの子どもが悪いことだと答えた。反対に、教室内でチューイングガムを嚙むことや先生を名前で呼ぶこと、女子トイレに男子が入ること、あるいは手づかみで食べることは、これらの活動を禁止する規則がない限り、何ら悪いことではない、と子どもたちは考える(Nucci,1981)。

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