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【心理発達】同一性地位の発達

各々の同一性地位は、種々の内容領域(価値観や仕事など)について、「危機」あるいは「探索」という点と、「傾倒」という点で分類している。もともとエリクソンの対極的発想をいかして、何をしたか、しているかを半構造的面接(質問を決めているが対象者の答え方でさらに自由に詳しく聞いていく方法)を用いて取り出している。

しかし、その面接の折に分類しているのであるから、それ自体どのように発達しているのかを示していない。マーシアによる研究以降、その点についての検討が行われてきている。

最初に検討されている同一性地位の発達の順序は自我同一性の拡散(identityu diffusion)、②早期完了(foreclosure)、③モラトリアム(moratourium)、④自我同一性の達成(identity achievement)であるが、たとえば、早期完了のままであったり、他の発達の順序も見いだされてきた。

何より、一つの地位のままでいる人が5割以上いることがわかってきた。安定した同一性地位がむしろ多数なのである。また、変化した場合でも、「向上」しているばあいは、「退歩」している場合に比べて、多少多い程度であった。今までになされた研究結果をまとめると、次のように要約できる。

①同一性達成の数は年齢とともに一貫して増加する。

②モラトリアムの数には一貫した増減はない。

③早期完了の数は一貫して減少する。

④同一性拡散の数は減少するか、同程度である。

⑤同一の地位に安定している青年の数は、同一性達成で一番多く、モラトリアムで最も少ない。

分類を変えて、その道筋の違いを取りだすこともなされている。ある研究で「堅い」早期完了と「発達的な」早期完了とを分けている。堅い早期完了は安定した道筋をたどっていくのに対し、発達的な早期完了はより成熟した道筋に向かっていった。同様に、同一性拡散についても、安定型と進歩型が見いだされている。

傾倒という面で見ると、同じ人を追いかけて調べると、その傾倒は揺らぎを見せる。探索についての実験を行うと、その時期の後に何かに傾倒する場合は、実験の時期にいわば外から与えられた形で傾倒するのと比べ、より柔軟で適応的である。傾倒の強さはどちらも同じ程度である。

つまり、傾倒は、強さと質の双方が入り交じったものとして成り立っているのである。

同一性地位の発達の規定因

同一性地位の発達を考える際に、その形成過程における文脈的要因を考える必要がある。どのような社会的、歴史的状況にあるかにより、各々の地位の適応の質は変わるかもしれない。モラトリアムは現代の高度産業化社会においてむしろ適応的なのかもしれない。

長い教育時間、青年期に定職を得る必要が必ずしもないこと、寿命が延びたこと、社会の変化が激しいことなどにより、若いうちに一生の仕事を決めて、後はそれに邁進するといったことが困難になってきている。だが、それは「自分は何者か」という問いについてどうでもよい、気にしなくてよい、ということを意味しない。

むしろ、現代社会の選択の余地が大きく、各々にそれなりに熱意を持って取り組むことを求める。選択肢は多くなっていき、各々の選択肢は不安定でありながら、それはなお「自分らしく」あるものであり、また世間がその人であるとみなすのも、すなわち同一性なのである。

コテ(Cote,1996)は、文化的観点から「同一性資本」という考えを提出しており、それを現代社会に生きる人間が持つべき一種の財産として考えている。その一つは、いわば目に見える社会的なもので、たとえば、教育の資格、社会的・職業的ネットワークの一員であること、服装や言葉遣いのスタイルなど、要するに、社会的、制度的な移動のためのパスポートである。

もう一つは、自己効力感、批判的思考の能力、認知的柔軟性や複雑性、自己モニターなどの心理的資源である。これらの資本により、人は流通性のある自己概念と自己呈示を獲得し、自我同一性の市場において自己の売買を行っていくと見なしうる。

こういった経済の市場によるたとえは、たしかに同一性地位の発達の一面を捉えている。社会の中に適応するという面を持っている以上、それが影響するはずだからでる。事実、社会的、経済的変化によって、同一性達成が減り、モラトリアムが増えるとか、早期完了が適応的にマイナスの働きをしやすくなったことである。

さなに重要な見方の変化が表れている。青年期を超えて、もっと長い幅で考えるべきだという見方である。マーシアの理論家の発展の中で、モラトリアム-達成サイクルという考えが提出されている(Stephen et al.,1992)。

若い時期に達成されるものが再びある年齢で不均衡に陥り、改めて新たに体制化を受ける。探索と傾倒という2つの極を考え、その間で大きく揺れるとみなす。探索の極では、柔軟性と変化への開放性が大きい。もう一方の傾倒の極では、構造の形成と維持が行われる。

同一性達成から早期完了への移行する場合、構造的な再変化を廃棄して、自分の傾倒を維持しようとする。探索の極にはまりこむと、同一性拡散に向かってしまう。

その際に、2つの人格傾向が重要となる。1つは、道具的志向と経験的志向である。道具的志向は、目標に向かうものであり、達成を求める。あまりに道具的志向が強すぎると、他の選択肢を考慮せず、行き詰まりに陥ることがある。経験的志向は、探索的であり、自我同一性を不均衡にさせる傾向がある。

極端になれば何にも傾倒できなくなる。もう1つの人格傾向は、形式的志向と対話的志向である。形式的志向は、形式主義、メカニズム、二分法、直線的因果関係、絶対主義的思考に傾く。傾倒の形成と維持を促すものである。対話的志向は、ピアジェの形式的操作のさらに先にあるものであり、相対主義的、対話的(弁証法的)な思考の仕方を特徴とする。自我同一性の探索を促す。

自我同一性の発達のメカニズム

自我同一性の発達はどのような過程を経ていくのか。グロートヴァント(Grotevant,1987)。は自我同一性の形成を問題解決行動としてとらえ、自分あるいは自分の環境についての情報を、重要な人生の選択を決断するために集めることを目指すものとして捉えている。

そういった自我同一性の作業(ワーク)に従事するのは、個人的特徴と文脈的要因、職業・価値等の内容領域の現在の自我同一性形成の過程などにより影響される。個人的特徴としては、セルフ・エスティーム(self-esteem;自尊感情)が高いこと、自己モニター、自我の弾力性(resilience;レジリエンス)、経験と情報に開かれていること、認知能力、現在の自我同一性などであり、これらは探索と自我同一性の発達にプラスに影響する。

文脈的要因とは、まず何より、自我同一性と選択を行うことについての文化的信念と期待である(探索や選択を許容・協調するかどうか)。

また、家族要因が重要である。青年の探索を支えるコミュニケーション過程(結合性;connectedness)や個別の視点の発達を刺激するコミュニケーション過程(個人性;individuality)があるかどうか、友人や学校や職場環境なども影響し、自我同一性の探索のモデルや多様性、機会を提供する。

これらの文脈は、青年の自我同一性の発達に伴い、変化していくダイナミックな関係をもつ。

探索過程自体は5つの相互に関連する要素からなる。①自我同一性をめぐる期待と信念、②情報の収集と仮説検証(自分の仮の自我同一性の試行)、③時間と努力の投入、④探索過程と競合して個人の注意や努力を奪う力(生活の必要など)、⑤予備的な評価(自我同一性を得て評価する)、である。

これらは循環的に働き、試しては評価し、また試していく。探索から傾倒に向かい、その傾倒の経過をまた評価する。新しく得た自我同一性の感覚と環境がうまく適合するかどうか、不適合による葛藤があるかどうか、また新しい自我同一性により満足感を得るかどうか、葛藤による不満足が大きいかどうか、などにより、探索はさらに続くかもしれない。

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