人格と社会性の発達

新生児は生まれて間もないころからかなりはっきりとした人格を持っている。生まれて間もない数週間という早い時期から、活動水準、環境の変化に対する反応、またかんしゃくなどにおいて、個人差がみられる。よく泣く子もいれば、ほとんど泣かない子ももいる。

ほとんど騒ぎ立てることなくおむつをつけたりお風呂に入れることができる子もいれば、足で蹴ったり暴れたりする子もいる。またあらゆる音に反応する子もいれば、ほとんど大きな音にしか反応しない子もいる。乳児は「抱かれること」にも個人差がある。

抱かれることを喜び、抱いている大人は自らの体をゆだねようとする子もいれば、こわばって体をくねらせ、ほとんど体の調整ができない子もいる(Rothbart&Bates,1998)。こういった気分に関連した人格特性を、気質(temperament)と呼ぶ。

気質(temperament)

非常に早い時期に生じる気質に関する観察は、これまでの伝統的な見解である。乳児の行動はすべて初期の環境によって形づくられるのだとする主張に反する。憤る(むずかる:子供の機嫌が悪く、泣いたりすねたりする)乳児を持つ親は、その子の示す問題を親である自分たちのせいであると自分たちを責める傾向にある。

しかし新生児を対象とした研究により、多くの気質的な差異は先天的なもので、親と乳児の関係は補助的であり、言い換えれば乳児の行動もまた親の応答を形成していることが次第に明らかになってきた。すぐに静かになる乳児、抱き上げると体をすりよせたり、泣き止むような乳児は、親としての能力ならびに愛着の感情を高めることになる。

なだめようと努力しても、体をこわばらせ泣き続けるような乳児は、親としての不適切さや拒否的感情を形成させることになる。親からの刺激に対し敏感に反応する乳児であれば(抱きしめると体をすりよせ静かになり、話しかけたり一緒に遊んだりしようとするとすぐさま注意を向ける)、親と子の愛情の絆は容易に確立されるといえる。

気質に関する草分け的研究の一つとして、同じ子どもたちを1950年代から追跡調査した研究がある。対象は140人のアメリカに住む中流、上流階級の乳児であった。

最初のデータは親たちの面接によって収集された。その後、教師との面接ならびに子どもたちに行われた検査の得点が追加された。乳児たちは九つの特性に基づいて得点化され、その後三つの広義の気質類型にまとめられた。すなわちよく遊び、睡眠や食事習慣が規則的であり、新しい状況に容易に適応する乳児は、扱いやすい気質(easy temperament)と分類された(標本の約40%)。

感情の起伏が激しく、睡眠や食事習慣が不規則であり、新しい状況にかたくなにかつ否定的に反応する乳児はきむずかしい気質(difficult temperament)と区分され(標本の約10%)、また活動水準が低く、新しい状況から緩やかに遠ざかる傾向があり、新しい状況に対し容易に適応する気質の乳児よりも多くの時間を必要とする乳児は、ゆっくり適応する気質(slow to warm up temperament)と分類された(標本の約15%)。

そのほかの35%の乳児は、いかなる次元においてもその水準の高低を評価することができない子どもたちであった(Thomas,Chess,Birch,Hertzig,&Korn,1963)。

最初の標本のうち、133人の乳児が成人になるまで追跡調査され、再び気質と心理的適応に関して評価された。その結果は、気質の連続性が混在したものであることを示した。一方これらの子どもたちの生後5年間の気質得点は、それぞれ有意な相関を示した。

すなわち、「気むずかしい」気質の子どもたちは「扱いやすい」子どもたちと比べ、後々学校での問題を多く示す傾向があった。また成人期での気質と適応の評価は、3,4,5歳時に得られた児童期の気質の評価と有意な相関がみられた。

他方、すべての相関係数の値は低いものであり(およそ0.3%)、個別に見ても、九つの特性の大部分がほとんどあるいはまったく縦断的連続性を示していなかった(Chess&Thomas,1984;Thomas&Chess,1986,1977)。

子の気質の安定性に関する初期の研究は、方法論的な問題で批判されている。それは、幼児の気質が、あまりにも親の報告に依存しており、親の判断に偏りがあると考えられるからである。親たちは、観察者が評価するよりも自分たちの子どもを過度に肯定的に評価したり否定的に評価したりする。

親の報告と子どもの行動を直接観察したデータとの両方を扱った最近の研究では、誕生して間もないころに見られる気質的な特性は、それほど安定したものでないことが示されている。つまり、生後2カ月のときに見られた気質は、5歳の気質とあまり類似しない。

しかし少なくともよちよち歩きの幼児期に評価された気質はその後の情動的特性や行動特性を予測させる(Rithbart&Bates,1998)。ある研究では、生後21カ月時に79人の乳児がきわめて抑制的か否かによって分類された。

生後21カ月時に抑制的と評価された子は、13歳になって、社交性、飛行、攻撃行動のテストにおいて有意に低い得点を示した(Schwartz,Shidman&Kagan,1996)。また別の研究によると、見慣れないことに近づくか、回避するかの傾向は、その後かなり安定したまま継続する気質の一面であることが見いだされている(Kagan&Snidman,1991)。

さらに気質は少なくとも遺伝的影響を受けるという証拠がある。

一卵性双生児における気質の類似性は二卵性双生児のそれよりも高いことがいくつかの研究で示されている(Rothbart&Bates,1998)。この一卵性双生児が二卵性双生児よりも類似性が高いという知見は、気質において遺伝子が一つの役割を担っていることを示唆する。

なぜなら、一卵性双生児は同じ遺伝子構造を有しているからであり、他方、二卵性双生児は遺伝的に見ればいわゆる兄弟と同様、その遺伝子構造は似ていないからである。

研究者は気質が連続的であるか非連続的であるかは、子どもの持つ遺伝子型(遺伝的特色)と環境との相互作用によると主張する。とくに、健康的な発達のカギとなるのは、子どもが持っている気質と家庭環境との好ましい適合である。気むずかしい子どもの両親が快活で安定した家庭生活を提供するなら、その子どもの持つ否定的で扱いにくい行動は年齢とともに減少する(Belsky,Fish&Isabella,1991)。

トーマスとチェスは、生後数か月から5歳にかけて最も困難な気質を持ったカルの事例を引用している。カルの父親は息子の「元気いっぱい」の気質に喜び、息子が新しい状況で示す否定的な反応を受け入れたので、カルはのびのびと成長し、次第に「扱いやすい」気質と分類された。

しかしながら、カルの元々の気質は、しばしば一時的なものであったが、彼の取り巻く環境が変わったときに決まって現れた。たとえば、彼が児童後期にピアノの指導を受けるようになったとき、彼は再び強度の否定的な反応を示した。

その後、ゆっくりと適応性を示し、結果的には肯定的で熱心に練習に参加するよようになった。同じような様式は彼が大学に入学したときにも見られた(Thomas&Chess,1986)。

遺伝子と環境の相互作用が子どもの気質をつくることの強力な証拠は、誕生以来離れて養育された双生児研究から見いだされている(Plmin,1994)。離れて育てられた一卵性双生児は、気質の一側面と考えられる抑制的傾向と否定的情緒を示す傾向に、ある程度の類似性を示している。

しかし、この類似性は、一緒に育てられた一卵性双生児の類似性よりも有意に低く、つまり環境が気質に影響していることを示唆する。

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